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蜃気楼の女

第35章 現代の安田邸

「尚ちゃん…… 何なのこの部屋の変な見え方って? 僕の目がおかしいのかな? トリックアートとかいうヤツ? それとも、からくり屋敷の一種とか?」
 進一はそう言いながら部屋を進む。前を歩く尚子の細い首筋、なで肩から小さな背中にはすけて見える濃紺色のブラ、くびれた腰と、突如、突き出た盛り上がった欲情をそそる尻を凝視した。
(尚ちゃんの体は後ろから見ても、エロいなぁー もうーー抱きしめちゃおうかなぁー)
 そう思いながらも、そんなことは絶対できない。だから、どうでもいい部屋の話題を振る。どうでもいいと、思いながらも、尋常とは言えない部屋の不思議さと、この巨大な部屋の空間に不釣り合いなダブルベッドが大いに気になった。
(今、僕の妄想の世界なのかなあ)
 進一には、妄想と現実の区別、境界が不確かで、生きている感覚が乏しい。
(僕はこんな状態で生きていると言えるのだろうか)
 前に歩いていても、これが前に進んでいることが現実か、虚構の世界か。進一は考えることすら疲れていた。
 ベッドの上には等身大の人形が一体置かれていた。近づいて人形を間近に見た進一は、自分と全く同じ体形をしていることに驚いた。前を歩いていた尚子は、寝ている人形の横で止まった。
 尚子は、玄関に入ってから後ろを歩いてくる進一にどういう対応をこれからしようか、考えていた。尚子もまた、進一と同じように、病的な現実逃避である妄想モードに突入し易い女だった。

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