テキストサイズ

蜃気楼の女

第35章 現代の安田邸

(ああーー 進ちゃんと二人きりだよ、どーうしょうぅーー 高校生のときと、状況が同じだゎーー うっれしいなぁーーー 進ちゃん、どうしよう、これから、どうしてやろぅー? ねえ? あ、あたしにどうされちゃいたいぃーー? フフフゥーー)
 尚子の心が、悪魔タイプに変身し、別の心の声が全身にこだましていた。尚子はこれから進一と二人きりになることを考えると、心臓が、ドキドキ、パフパフ、鼓動を速めた。職場で配送中にしている進一への誘惑とはレベルが違った。何しろ、ここは尚子が作った密室だ。この作り出した異次元空間から進一は逃げられない。進一をもう、どうにでもできる、と思うと、尚子は異常に興奮してきた。アラビアーナ人の遺伝子が、尚子の体の中心でギィッチョ ギッチョ とたぎった。
「尚子、進一をいたぶってやるんだ、食ってやれぇー、奥まで、がっぷりぃー、フガフガ パフパフ くわえてやれぇー 行っけぇー 今だぁー」
 尚子の脳内で、悪魔の叫ぶ声が相変わらず聞こえた。
(あんたは誰? 邪心はずっと昔、愛する今は亡き橋本に退治してもらったはず。これは、本当の自分の声なの? それとも、生き残った邪心なの?)
 尚子はどこからともなく聞こえる声に向けて質問した。
 かつて、進一を家庭教師として自宅に迎えていた、女学園3年生、大学受験勉強の出来事がよみがえる。進一とともに送った受験勉強は、尚子にとって進一と愛を育んだ青春の一ページだ。毎日、進一と並んで勉強したあの頃、妄想ばかりの日々だったが、当然ながら、進一と肉体的な関係はなかった。それどころか、進一は、東大合格発表の日、別れのあいさつもせず、尚子の前から突然、消えた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ