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蜃気楼の女

第35章 現代の安田邸

「え? ああ、人形のことね? 」
 尚子が突然、正気に戻り、目を大きく開いた。尚子の唇が進一の唇の上に重なっていた。突然のハプニングに尚子はキスをしたままで、進一の顔をしばらく見つめていた。唇を重ねたまま、その状況を理解できなくて、目の前で見る進一の顔を愛おしむように見つめていた。
(進ちゃんの唇が、うそみたいに柔らかだぁー)
 キスしたまま、進一もこの状態をどうごまかせば、解決できるのか分からず、そのままキスをして考えたが思いつかない。
(何で、今日に限って、キスしている途中で正気に戻っちゃったのぉー)
 進一はアイデアが浮かばない。
 尚子は目を大きく見開いていたが、だんだんと目を細めていく自分に気が付いた。
(なんかぁー あぁー このまま、ずっと、進ちゃんとこうしていたいぃー 妄想だけどー なんか本当ぽくって、いいなぁー)
 尚子が一番に思った考えだった。
 しかし、別の尚子が脳内で叫ぶ。
(エエエッッーー 進ちゃんとあたし、今、キスしているよぉーー ど、どうしてぇー? 何ぃー? ど、どういうことぉーー?)
 尚子はこの意外な状況に驚きながらも、うれしさがこみ上げ、気持ちが舞い上がっていくのを抑えられない。
(これって、進ちゃんがあたしにキスしてきたの? そーういう状況なのぉ? あたしの魅力に気が付いてくれたってぇーことぉー?)
 尚子はそういう喜びを瞬時に感じたのだが、条件反射のごとく、いつもの防衛反応をした。尚子は背中に回していた手を進一の胸に当てると、思い切り押し出した。キスしていた唇が最後に離れるという変な反応になった。本能の尚子はキスをしていたかったのだ。

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