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蜃気楼の女

第35章 現代の安田邸

「ほら…… ここ、実にリアルだろ?」
 進一は天井を向かって垂直に起立している心棒を人差し指で指す。
「このくびれの部分、生々しいくらいに似ているんだ……」
 進一はじっと尚子の顔を見つめて言った。
「これを見ても、きみは、まったく、視線を外さないね。どうして?」
「えっえーー 」
 尚子は思わず声を上げてしまった。
(何で? 見るために作ったのに、目を外すことができるの? いつも進ちゃんのが恋しくて、見つめるために作ったのよぉー)
 尚子は心ではそう思っても、そんなことを言ってはおしまいだと瞬時に思った。
「だって、進ちゃんと全然似てないもの、見ても平気よ」
 尚子の口から言葉が出たが、何を言ったか分からない。すっかり、頭はパニックになっていた。
「そこぉ…… 似てないって、言うこと自体、おかしくないかい? きみは僕の体を熟知しているような言い方だね…… どうしてそういう言葉が出てくるの? 似てないって事は、僕のものを知ってるってぇー事だろ?」
 知能指数(IQ)180の尚子は、すでに、進一の前では無力だった。彼女の優秀な頭脳は働いてくれない。今、働いている脳は本能の尚子だ。
「どうしてって…… あなたをいつも見て知ってるからかなぁ?」
「そうなんだぁ…… やっぱり、今まで、変な記憶が時々、フラッシュバックするように現れることがあって…… それはきみが、何か操作していたって事なんだね? まさか…… 睡眠薬とか? まさかねー お父さんは厚労省の役人だよね、そんな薬物が手に入ったりするの?」
 尚子は進一の質問に明確に答えられない。しどろもどろになっていく。頭が白くなっていく。膝が震えてくる。
「ご、ごめんなさいーーー 進ちゃん、あたしのことを嫌いにならないでぇーー」
 尚子はそう叫んで、その場に座り込んでしまった。
「そうか? 睡眠薬を使って僕を裸にしていたんだね? なんてことをするんだ、きみはぁーー」
「ご、ごめんなさい、許してくださいませ、ませ……」
「駄目だね、僕の裸をたっぷり眺めたんだろ? 一方的な行為はフェアーではないね、いけないねーー いけないねぇー そんことをしちゃーいけねえよぉー」

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