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蜃気楼の女

第35章 現代の安田邸

 進一の命令口調を恨むような顔を見せた尚子は、ゆっくり立ち上がると、手を両脇にそろえると直立した。やや顔を下に向けている。尚子は決心したように、その顔を進一の顔に向けてゆっくり上げ、頭を縦にゆっくり振って了承した。
「あたしの体を…… 見てくだ……さぃ」
 そう言った尚子の顔は真っ赤に紅潮していた。白いブラウスの首に近いところのボタンに両手を移動させる。尚子の手の指がぷるぷる震えているのが分かる。ボタンを上から順番に下に向かって、外していく。はだけたブラウスのすき間から白い肌が表れだした。尚子の真っ白な肌が、部屋の照明が当り、まぶしく光っている。あまりにも奇麗でまぶしい。進一はこんな恥辱を尚子に味わわせている自分が恐くなり、目を閉じた。
(ほんと、きょうの妄想はすごすぎるよぉー)
 そう思いながら、閉じた目を開け、さあ、見るぞと気合いを入れた。これから、尚子の服に隠れた肌が見られると思うとぞくぞくした。進一はそっと目を開いていく。夢ではなく尚子はまだ目の前にいてブラウスのボタンを外していた。進一はさらに目を大きく見開いて、叫んだ。
「さあっー 僕に何を見せたかったのか、もっと、はっきり言うんだぁ!」
 進一の大きな声が部屋に響いた。

  *

 ところが、進一の前に、たった今まで、服を脱いでいた尚子はいなかった。裸の人形が作業台の上に横たわっていた。部屋に入ったときと同じ状態のように進一には思えた。
(エエェー どういうことぉーー?)
 進一は楽しい妄想が終えんしてしまったことを確信した。目の前に横たわる人形の表面にそっと手のひらを置いてみた。人間のような暖かさは感じないが、肌と同じ感触だ。
「やはり暖かさまではないんだね?」
 進一が直ぐそばに立っている尚子を見て言う。
「今、電源が入ってないからよ……」
 尚子はそう言ってから、人形の前髪の毛を両手で探った。
 ブィーンーー 
 という低い音と同時、突然、人形のまぶたが開いた。

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