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蜃気楼の女

第35章 現代の安田邸

 尚子はそう言うと、尚子の豊満な胸を両腕で自ら抱きしめて、祈るように目をつぶった。彼女は顔をまっかに赤面させ、口をわずかに開けて呼吸を荒くしている。進一の返事に期待をし、腰をくねらせながら待っている姿がなまめかしい。進一は顔を左右に振って身震いさせた。
(ぅううーー な、なんなのぉ? この展開は?)
 進一は心の中で叫んだ。尚子から、この状況で、抱擁を求められている。進一はどう返事をしたらいいのか戸惑った。進一も尚子のことを好きでたまらないと言ったら、尚子の行動が予測できなくて、恐くてすぐに答えられない。
(きっとこの場で尚子に犯されてしまいそうだ、童貞を尚子にささげることになるかもしれない。まだ、心構えができていない。いや、犯されるのは嫌だ、僕は尚子を犯したいんだぁーー)
 尚子とは愛し合いたいが、主導権は自分が持ちたかった。進一はこの状況を冷静に分析する。尚子の家に招かれ、尚子の部屋に拘束された。猟奇的なドール製作のアジトでもあり、人形のモデルになっている自分がこの場に連れてこられた。人形の代わりに、これからこの部屋に永久に拘束されるのではないか。父親が来てくれと言っていたのにもかかわらず、今、家に父親が不在である。父親が了承しているか、尚子の話は疑わしい。
 しかし、母親は家にいて出迎えてくれたのだから、このまま、拉致され、拘束されて、ドールの代わりに、一生、自分が尚子の慰めものになる恐れはないだろう。
 しかも、友だちの幼なじみにそんな事をするだろうか。尚子と4年も会っていなかっただけだ。4年は長い時間かもしれない。その間、尚子の人格が変態に豹変(ひょうへん)してもおかしくない。さなぎからちょうに変身するように。それとも、流行病にかかった、ウイルスに感染した…… かもしれない。進一の思考はしゅん巡し、分析すればするほど、尚子の思考が読めず、思考停止状態になった。

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