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蜃気楼の女

第35章 現代の安田邸

 そう言いながら尚子の目から涙があふれていた。
「ああー これってぇー やっと進ちゃんと肉体関係になったのぉーー」
 その瞬間、部屋のドアから尚子の母、ナルミがノックもしないで突然、飛び込んできた。
「尚子ー おかえりぃー やっと、現実の世界に戻ったわねー お母さん、心配してたわー 良かったわねー 進一さん、尚子を現実の世界に導いてくれて、ありがとう、本当にありがとうねぇー」
 進一は尚子と二人で裸になりながら、ベッドに座っている姿をナルミに目撃されて、恥ずかしかった。そんな状況でありながら、進一にとっては、ナルミが尚子のそばに寄ってきて、背中の後ろからハグしている愛情があふれる姿になぜか現実感がなかった。
「僕らのことは、お母さんにはすべてお見通しだったのですね?…… こんなところをお見せしてしまい申し訳ありません……」
「進一さん、恥ずかしがらなくていいわよ、進一さんのことはすべて知ってるからね……あたしも、尚子も超能力があって、どんなことも分かるのよ。隠し事なんか、あたしたちの前では無意味なのよ」
 進一にはナルミの言うことが、何を言っているのか理解できなかった。
「お母さん、超能力とおっしゃいましたか? それはどんな能力なんでしょう?」
「そうねぇー 例えば、この部屋、変でしょ?」
 改めて、ナルミから言われた質問は、ずっと、この部屋に入ってから尚子に質問していた最大の疑問である。この部屋の大きさも形も、変だが、尚子の作るドールがロボットとか言う次元を超えた精巧さが、現実と言う世界と整合性を持っていない。進一にはこの今の状況がすべて疑問であって、その答えが、妄想の世界という結論になる。結論、今は妄想の世界にいる。三段論法の結果であると思っていた。

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