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蜃気楼の女

第35章 現代の安田邸

 そのアラビアーナの女たちの歴史を考えると、安田尚子はあまりにも大切に育てられたため、肉体はまさに華奢(きゃしゃ)であった。彼女は生来の数千年に一度生まれるかどうかの超能力者だったがために、肉体を使うことはなく、精神的な命令を相手の脳に働きかけることで何でも自分の思うとおりのことができた。知能指数(IQ)180の彼女は、両親にも能力を隠してきた。同じ能力を持っている両親すら、尚子の並外れた超能力の前では赤ん坊同然だった。
 では、山野櫻子と安田尚子は、どちらがより強い超能力を備えているのか。二人は超能力の種類が違うから比較はできない。生物には個性がある。早く走れるもの、泳げるもの、飛べるもの、いろいろな個性がある。超能力者も同じである。二人はお互いの超能力を熟知している。だから、競うことはしない。そんな争いになったら、さすがに二人にもどんな結果になるのか、予想が付かない。共倒れかもしれない。だいたい、争いは起きない。なぜなら、二人はお互いの心も体も愛していたから。そして、彼女たち、蜃気楼(しんきろう)の女には、嫉妬、と言う感情はない。基本、心が通じ合えれば、誰でも愛せる民族的な特性があった。虐げられた民族が長い歴史を重ねたすえに得た特性だった。

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