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蜃気楼の女

第2章 魔性の女・安田尚子

 そう言った児玉は尚子を見た。もう、この子とも今日を境に会うことはないだろう。こんなかわいい子は他にいないだろう。
「進ちゃん、あたしのお願い聞いてくれる?」
 尚子が神妙な顔をして、ミニスカートから出た膝を児玉に向けた。児玉は綺麗な足だな、と思った。その瞬間、尚子は膝を使って児玉の足を押しながら前に接近してきた。真剣さを通り越し怖いくらいだ。
「進ちゃん、あたしを女にしてほしいの!」
 その言葉を聞いた児玉は櫻子を探した。櫻子の姿はなかった。
「進ちゃん、どうしたの? あたし、嫌いなの?」
 今までの経過があるせいか、尚子の大胆な誘いに、決して、驚くことがなかった。むしろ自然の流れのような気がした。だって、僕は尚子が大好きなんだから、当然、愛し合って当然なんだ。そんな風に、児玉の考え方が、最初にこの部屋に入ったときと比べて、変わっていた。そして、ふと思った。尚子も変わったのではないか? 最初は確かキスをして、と言っていたではないか? 

 これは現実の世界である。しかし、つい今し方まで悪夢を見続けてきたのである。児玉は自分の左手の甲を右手で強くつねった。痛い、やはり、これは間違いなく現実である。
「尚ちゃん、キスでしょ? 順番でいくと。きみは本当におませで困るな。冗談にもほどがあるぞ…… ふしだらな冗談は可憐な女の子には似合わないぞ」
 感受性の強い高校生の女子には良くあることだ。困った願望を人に伝えて人をからかう。
「進ちゃんって、乗りが悪いのね、 あー、つまらない。進ちゃんとならエッチしてもいいかな、って思ったから言ったのよ……」
「バカいうんじゃないぞ! ほんと、怒るぞ!」

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