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蜃気楼の女

第2章 魔性の女・安田尚子

 児玉が尚子に怒った顔をして言うと、尚子は唇をとがらかせて、児玉の顔に自分の唇を近づけて逆襲してきた。
「分かったわ、エッチ駄目なら、キスして…… それならいいでしょ? デープでね、ファーストはもう3年前にして貰ってるからね。舌と舌を絡ませる奴、もう、あたし、大人の女よ、進ちゃん、して、して……」
 尚子は口をすぼめ、タコみたいに唇をとがらして、目を思い切り閉じたと思ったら、うっすら片目を開けて様子を伺っている。児玉はその顔を見て笑った。
「まいったな、尚ちゃんには…… キスする気もなくなるよ、それじゃ、顔がまるでひょっとこ、 |蛸《たこ》のはっちゃんだよ」
 尚子は片目を開けて児玉の様子を見ていたが、首を左右にブルブル振った。
「馬鹿にしないでよ! 見くびらないで! あたしって、遊んでいて、すっごい経験豊富なのよ、もう、男遊び、一杯しちゃってるから、ね、お願い……だから、してほしい……」
 尚子は豊満な胸を児玉の体に押しつけてきた。
「ねえ、進ちゃん! ねえ! もう、してって!」
 尚子はそう言うと、両手を児玉の肩の上に乗せて、顔を児玉の前に出した。
「もう、あたしが進ちゃんの唇を奪っちゃうから……」
 そう言うと、尚子は進一の唇に自分の唇を一気に近づけた。進一と尚子は唇を重ねた。
「はい、そこまで、現行犯逮捕です!」
 児玉は尚子と唇を重ねた途端、女の声がして驚いた。二人しかこの部屋にはいないはずなのに。
「いけませんねえ、安田尚子17歳、東京都淫行条例により、児玉進一を淫行条例未遂容疑で現行犯逮捕します」
 児玉は尚子から唇を外し、声のするほうを見た。その主は、山野櫻子だった。
「あああー また、きみか? きみは現実にいるんだ。もう、僕には何が何だか分からないよ。きょうは悪夢だよー」

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