蜃気楼の女
第37章 田所学園長の復活
田所平八郎が目を覚ました。首を左右に動かし、部屋の中を見ると、今まで話していた橋本と尚子の姿が消えていた。顔を覆っていた酸素マスクも外され、呼吸がしやすい。右や左に顔も動かすことができるという何でもないことに感謝した。右腕を動かそうとしたら、動かない。左腕は動く。右側に首を動かすと、脇に髪の毛が見えた。脇で誰かが寝ていて、腕の上に頭をのせている。黒い艶のある髪が顔を隠していた。
しかし、田所には山野櫻子という名前がすぐに浮かんだ。田所は左腕を動かし、掛け布団から左腕を出すと、櫻子の髪の毛に当てた。手のひらで軽くなでてみた。右手首に痛みが走った。右手首を力強く握られたのだ。布団に顔を埋めていた櫻子が顔を上げ、顔を田所のほうにゆっくり向けた。
「俺の体を返せー」
脇に寝ていたのは櫻子ではなく、橋本浩一だった。橋本は手首を持ったまま、鬼のような形相で田所の腕を高くねじ上げた。バキバキ 橋本の腕力でねじ上げられた腕の付け根で変な方向に曲がりながら、低い音を上げた。
ワアァァー
橋本は気勢を上げつつ、田所の腕を激しくつかんで引っ張る。田所の激痛は限度を超えショック状態になっていた。腕の皮膚を破って飛び出た骨が、自分の腕ではないように見えた。ケタケタと笑いながら、橋本は田所を闇の中に引き寄せるようにゆっくり引きずって歩いて行く。
「いいか…… 田所、俺はおまえを許さないぞ。おまえの好きにはさせない」と、振り向きながら橋本が言った。
しかし、田所には山野櫻子という名前がすぐに浮かんだ。田所は左腕を動かし、掛け布団から左腕を出すと、櫻子の髪の毛に当てた。手のひらで軽くなでてみた。右手首に痛みが走った。右手首を力強く握られたのだ。布団に顔を埋めていた櫻子が顔を上げ、顔を田所のほうにゆっくり向けた。
「俺の体を返せー」
脇に寝ていたのは櫻子ではなく、橋本浩一だった。橋本は手首を持ったまま、鬼のような形相で田所の腕を高くねじ上げた。バキバキ 橋本の腕力でねじ上げられた腕の付け根で変な方向に曲がりながら、低い音を上げた。
ワアァァー
橋本は気勢を上げつつ、田所の腕を激しくつかんで引っ張る。田所の激痛は限度を超えショック状態になっていた。腕の皮膚を破って飛び出た骨が、自分の腕ではないように見えた。ケタケタと笑いながら、橋本は田所を闇の中に引き寄せるようにゆっくり引きずって歩いて行く。
「いいか…… 田所、俺はおまえを許さないぞ。おまえの好きにはさせない」と、振り向きながら橋本が言った。