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蜃気楼の女

第37章 田所学園長の復活

 意識を失っていた田所の脳が活動を再開するのに、時間は掛からなかった。幼少期からの器量の悪い男というレッテルは終わりだ。自分の顔を見たくなった。こんな美女が自分にキスをしてくるんだから、相当な美男子になっているに違いない、と思った。
 田所はここで大きな勘違いをしていることに気が付かなかった。櫻子はアラビアーナの女である。つまり蜃気楼(しんきろう)の女はパートナーを顔では選別しない。自分たちに絶大な快楽を与えてくれる強じんな体力と筋力を持って、快楽を与えてくれることができる体を選別する超能力を持っていた。
 その嗅覚はアラビアーナ国女王の能力を持ったラービアこと、櫻子は成田空港で田所の存在を嗅ぎつけた。蜃気楼(しんきろう)の女が2000年の歴史を経て獲得した能力であり、その驚異的な能力を持って生まれた女王だからこそ、田所の元にピンポイントで来ることができた。田所はその驚異の能力を櫻子が持っていることは、友人のアラビアーナ国王・マスウードから聞かされてはいたが失念していた。また、容姿は日本人好み、肉体は種族の女たちとは違う育て方をしたので、か弱いので健康管理は気遣ってほしい、と頼まれていた。そんな美人なら結婚してもいい、と思った。
 しかし、念のため、別れられないよう、入籍させて拘束しておこう、とたくらんだ。だから、婚姻届を出した。超能力で自分だけは配偶者なら抹殺しないと思った。著名な教育者と言われた人間が人道に外れたことをし始めたのは、彼の良心に闇の世界の邪心が浸食してきたからだ。邪心によって、外道に成り下がった田所は、自分の都合のいいように画策を加速させた。その邪心ですら、読みが足らなかった。奪った橋本の肉体が、安田尚子により、超能力を与えられたことが、予想できなかった。
「櫻子さん、ちょっと自分の顔を見たいんだ。そこの机の引き出しから手鏡を持ってきてくれないか?」

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