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蜃気楼の女

第41章 未来に向かって

「でも、櫻子様、体はおじさんですから、同じだと思うんですけどぉー あたしとか、じゃ、満足できないんですか?」
「ううん、そんなことはないよ、あたし、尚子のこと、好きだよ、ただ、いろんな人と愛し合いたいだけなのねぇー もう、モヤモヤしっぱなしなのよ」
「ふーん、あたしだけじゃ、満足ができないってことですね?」
「そんなことを言ってないよ、じゃ、また、帰ったら、尚子をいっぱい愛して、そんなこと、ないって証明してあげる」
 それを聞いた尚子は桜子ににっこりほほ笑んだ。
「じゃ、早く邪心を片付けて、さっさと、帰ろうね」
「アイアイッサー お姉様……」
 櫻子は尚子が機嫌を良くしたようでほっとした。櫻子と尚子は正門を入ると、学園の中に入った。田所一人しかいないとはいえ、警備会社に頼んで警備員が配置されている。学園に通う女子生徒は美女そろいであり、変質者が忍び込むかもしれないから、セキュリティは厳重にしている。二人が正門から足を踏み入れると、詰め所にいた警備員2名が二人の前に駆けてきた。
「失礼ですが、お約束の方でしょうか?」
 そう言って近づいた警備員は、二人を見て、驚いたように言った。
「あっ あなた方は、学園長夫人と、安田尚子様ではありませんか?」
 櫻子は田所と別居状態であり、学園に来たのは久しぶりだった。尚子は卒業し、現在、東響大学に在籍している。彼女も久しぶりの母校への訪問であった。それでも、さすがに警備員たちは要人の顔を熟知していた。
「どうもご苦労さまでございます。夫の様子を見に来ただけよ。何しろ、教育熱心でここの寮に泊まりっきりで張り切っていますので…… 自宅に帰ってこないのよぉー あたし、寂しくて…… ねぇ、お分かりでしょ? だから、突然、顔を見せて、驚かしてあげようと、思っているの」
「…… ああ、なるほど」
 警備員たちは顔を見合わせ、納得していた。

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