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蜃気楼の女

第2章 魔性の女・安田尚子

 午後2時、尚子の部屋の目覚まし時計が鳴った。それと同時に、机に向かっていた尚子が、両手を上に上げ、大きく背伸びをした。大きく後ろに反って、小さいと思っていた尚子の胸が意外に大きいことに児玉は気が付いた。尚子は、そのまま、椅子を後ろに押して、両足を大きく伸ばした。ミニスカートがまくれて、太ももが現れた。尚子はそのまま両手、両足をばたつかせていた。ひとしきり動かして落ち着くと、姿勢を正面に戻してから進一に体を向けた。
「先生、ありがとうございました。尚子は明日死ぬ気で頑張ります!」
 そう言った尚子は両手をももの上に置いて頭を深く下げた。その時、部屋のドアをノックする音がした。
「失礼しますねー」
 尚子の母・安田鳴海が差し入れを持って入ってきた。
「進一さん、お疲れ様でしたねー」
 鳴海は40代であるが、体は美容の手入れを怠らないと見え、ナイスバディーの色香を漂わせていた。鳴海はコーヒー、ケーキを机の上に置くと、部屋から出て行った。
「きみのお母さんって、奇麗だよねえ。きみはお母さんの血を引いているんだな……」
 進一は尚子の顔をまじまじと見つめてからコーヒーカップを口に付ける。
「そんなこと言ってくれる進ちゃんって、うれしいな…… あたしの母って、アラビアーナ国籍なのよ、ちょっと、アジア人ぽくないでしょ?」
「え? そうなの? アラビアーナ国? へえ?」
 進一は地理は得意だが、そんな国を記憶していない。少し慌てた。あたかも知っているかのように振る舞う。
「だからか、日本人の厳かさ、しめやかさ、落ち着きを持った、なんか、そういうのとは違った魅力があるのはそのせいなんだ……」

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