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蜃気楼の女

第3章 児玉進一

 ところが、尚子は進一が尚子の体を求めてこないから、進一から好かれていない、と思っていた。魔性能力を獲得した尚子ではあったが、そこまで相手の思考を分析する超能力は獲得していなかった。言ってみれば、肉体派魔性能力者でだった。セックスすればお互いが気持ちよくなるのだから、また、気持ちいいことをするために、お互いを好きになる、そういうふうに、考えていた。体だけ大人に、魔性の女になっていた。清楚、可憐さをイメージさせる姿態を備えていたが、実は一般人は引いてしまう変質的な性癖になっていた。それは進一が原因でもある。好きな進一を振り向かせたい一心で特化した変質的な求愛行動をしてしまうようになっていた。好きな相手なら恥じらいなく直球勝負という性格。そういう得意な性癖は、進一が尚子を好きになった要素でもあった。魔性の力を得た尚子は、セックス大好き体質、人には言えない性癖に変貌していたことを進一は知る由もない。進一の記憶にある尚子は無邪気な、清楚で清純な尚子のままだった。尚子はそんな得意な、異常な性癖を好きな進一に知られてしまうことを恥ずかしいと思っていた。恥ずかしい、という乙女の意識は、魔性に変身しても進一に対する気持ちだけは残っていた。だから、進一のために、進一が好きな純粋無垢な尚子を演じようと思っていたが、どうしても、湧き上がる変質的な性癖を抑えることができない、我慢できない。進一と会うと、抱きたいし、抱かれたい、肉棒を弄びたい、いじくり回し、思いっきりくわえたい衝動に駆られて、自制が効かず、その行動を防ぐため、言葉で進一をいたぶる。それがまた楽しく快感だった。困った顔をする進一を見るのが楽しかった。まさに、変態だった。尚子は職場で進一に毎日会うのが楽しい。きょうはどうやって困らせてやろうか、と考えると、わくわくして、股間がすぐに濡れた。しかし、会うのが苦しかった。自分の変質的な性癖を隠さなければならない。進一を愛すば愛するほど、進一はよそよそしくする。それが悲しくて苦しかった。
「今週の土曜日、進ちゃんが遊びに来るの楽しみだなあ、お父さんも久しぶりに会えると言って喜んでたよ」
 尚子はそういうたわいないことを話しながら、商品のバーコードをスキャンし、データー化していく。
「尚ちゃん、作業しながらの、私語は慎みましょうね」

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