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蜃気楼の女

第6章 2006年10月 山野櫻子

「アアアーーー 苦しいわ…… どうしょうもなくこの力を抑えられない、お父様、苦しいわ…… 」 
 ここはアラビアーナ国、宮殿の中にある国王の寝室である。国王の一人娘・ラービアが蓄えつつある邪悪な心の影響を受けて、宮殿全体は朝から小刻みに念動に影響され、宮殿全体がわずかに振動していた。国王マスウードはひざまづくラービアの傍らに立って肩に手を置いていた。
「すまない、ラービアよ…… わたしの力を持ってしてもおまえの念動力を収めることはできない…… 」
 頭を垂れていたラービアは父・マスウードを見上げるように顔を上げると、眼から涙の跡ができていた。
「わたしはこのまま邪悪な心に支配されてしまうのでしょうか? 」
 ラービアの目から流れ出る涙の滴が床に落ちた。
「わたしの心と体を静め、平穏を与えてくださる方はいらっしゃらないのでしょうか? 」
 国王マスウードはラービアから1歩離れると、両手を胸に交差させ自分の体を力強く抱きしめた。目を静かに閉じた。ラービアの邪心によりカタカタ振動していた家具が床から1㎝ほど浮き出した。その瞬間、マスウードの足元から同心円状に波紋が幾重にも生まれ、四方へ広がっていった。5分ほど時が流れた。外へ広がっていた波紋が、やがて、国王の足元に返ってきた。その直後、浮いていた家具は床に静かに着地すると、部屋の中に静寂が訪れた。
「オオオーーー、いたぞ! この国にはいないが、日本におるぞ! その男の力はまだ弱いが、正義心が強く、優しい心、慈悲の心を持った男だ。その男なら、必ずや、おまえを救ってくれるだろう。行け、ラービアよ。急げ! その男と永遠の愛を誓い伴侶として契るがいい…… 」
 ラービアの瞳は大きく見開かれた。
「お父様、必ず、邪心に満たされる前に、その殿方と契りを交わして戻って参ります。それまで、お元気でお体にお気を付けくださいませ…… 」
 ラービアは国王の間から飛び出していった。その足音には明るい未来への期待があった。

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