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蜃気楼の女

第1章 再会

 児玉にとって、尚子は物心ついたときからの付き合いである。幼馴染みと言うより、妹みたいな関係だった。そう、妹みたいに思わないと、尚子は昔からませた子で妖艶な雰囲気を持っていた。特に児玉だけに対して異常なほど。二人きりになったとき、もっとも、あからさまに接触してくる。かなり前、尚子の高校3年の時、尚子の大学受験の前日、尚子と肉体的な関係を持ってしまった気がするが、全く思い出せないのである。だから、余計、変な詮索をしてしまう。何かあったのではないか、と思うが、思い出せない。不思議でならない。しかも、尚子とセックスした記憶だけが断片的によみがえるが、尚子はいつも通りに接してくるので、今でも思い違いと思っている。自分の尚子に対する邪な願望が偽の記憶を生んだんではないか、と願う。時々、尚子はあんなに愛し合ったのに、とか、変な言動をする。尚子から大学合格の報告を受けて、二人で会ったときからほとんど会わなかった。児玉が尚子を避けていたからだ。尚子とセックスしてしまったかも知れない。あれは本当にあったことなのか、尚子に聞いたほうが早いような気もしたが、聞けないで尚子を避けていた。尚子から逃げていた児玉も、避けていられない状況になってしまった。
「進ちゃんは、あたしに女の喜びを教えてくれた人、また、教えてくれる? 」
 おませの尚子が微笑みながら、児玉に言い寄ってくる。児玉の職場に新人として尚子が採用され、部下になった。尚子の父親の力が働いたからだ。しかし、何故? 
 尚子は少し考えた様子を見せて下を向いた。一瞬、にこりと笑ったように見えた。
「ぁあー なんだ、そうよね、ここに来てから、進ちゃんたら、昔、肌を許した関係なのに、急によそよそしいからびっくりしちゃったー 尚子、安心したー。今も肌を合わせたし、安心したー 」
「だから、そういう肌を合わせた関係とか止めてね。ただ、腕が触っただけでしょ? そう、仕事中はこれから絶対、止めようね。もう、誤解されるからさ…… 仮にも僕は今、きみの上司なんだからね…… 」
「ええー 進ちゃんを、困らせちゃったのー ご、ごめんなさい。そうよね、今は上司と部下の関係ですものねえ…… あのとき、師弟関係、肉体関係にまであたしたちなったのに…… 」

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