テキストサイズ

蜃気楼の女

第12章 日本入国

 日本に入国した安田仁は、赴任する前に住んでいた住宅に1年ぶりに戻った。ここをベースに日本支配の足がかりにすることにした。
 安田とナルミは部下の車で家に到着すると、隣家が引越の最中だった。段ボールの箱を運んでいた。夫婦と3歳くらいの男の子がそろって、荷物を運んでいるのを見ていた。安田とナルミは身一つ、強いて、荷物といえば、ナルミが愛用のマイむち、マイ縄を何種類か、トランクケースに入れて来ただけだ。それさえあれば、二人は幸せになれると確信していた。ただ、刹那の行為に溺れる変態だったからに他ならない。変態、あっぱれ、上等。
 日本文化に慣れないナルミは、三歳年上の隣人である児玉家の主婦・珠子と意気投合した。珠子の出身地は山形の農村で、物心のついた頃から家の農業の手伝いをしていた。土と自然を好んだ。児玉家の家には20メートル四方の庭があった。珠子の手により自作農園が作られた。ナルミは小さいながらも珠子が丹精を込めてこしらえた農園を見ると、自然の宝庫、故郷の蜃気楼を思い出し、暇さえあれば、珠子と野菜栽培を一緒に楽しんだ。
「ナルミさんって不思議よね。クウェートに住んでいたのに日本語がお上手ね? あたしと普通にお話ができるんですもの」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ