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蜃気楼の女

第16章 安田尚子の目論見

 親しき仲にも礼儀あり、安田は尚子がまっとうに普通に育ってくれていることを、その所作で実感した。ナルミの両親は、異次元空間・アラビアーナ国蜃気楼で、特異な能力を獲得した。そんな話、誰に話したところで信じてもらえない。自分たちの能力が男女の性の営みを使って、超能力を増幅させることができるようになった。そんなもの、何の役にも立たない能力と思っていた。二人が結合しないと能力が発揮できないのだから。それこそ、能力を出せるようになったとき、、安田もナルミも毎晩、絶頂で、酒池肉林の心地に酔いしれ、恥ずかしい行為三昧に明け暮れ、能力を使うどころではなかった。安田は、二人が結合したときだけ発揮できる能力を使い、人の物欲、食欲、性欲、あらゆる欲の大元である脳を操作することは、不可能であることに気がついた。人の性欲を操作し、緊張感漂う官僚の憂鬱な生活に入り込み、従順な性の奴隷化を広めようとした。しかし、そんな超能力を使わなくても、安田は順調に官僚の地位を昇り、日本政府の方針に影響力を持つ地位を築きつつあった。しかも、今までのように、こんな能力を、最愛の娘である尚子に継承するにはなんとも恥ずかしい能力と確信した。だいたい、能力を継承するとき、周辺の民族を皆殺しにしてしまう儀式など、絶対にやる気はなかった。だから、尚子は平凡で優しい女性に育てたい、と願った。
 安田夫妻は、ナルミの父から特殊能力を継承された。安田仁は、超能力などない、まったくただの人だった。しかし、尚子は能力の継承などしなくても、天性の能力者だったことに二人は気づいていない。能ある鷹は爪を隠す。突然変異により超人的な能力を持って生まれてきた尚子は、超能力を備えていることを隠し、両親に気づかれないように生きた。

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