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紅葉色のバイオリン

第2章 柊一

そんなある日、事件は起こった。

「ちょっと、どうしたの!傷だらけじゃん!」

珍しく僕の方が早く帰った日、希一が傷だらけで帰ってきたのだ。
斜め掛けのスクールバックも泥だらけだ。

「…何?」

明らかに不機嫌そうだ。
希一の口数が少ない時は大体、不機嫌な時である。
いや、元々僕ほど口数は多くは無いが。

「その傷、どうしたの?」

「転んだ。」

「嘘。」

僕はキッパリ言った。
希一の眉間に皺を寄せる。

「希一、僕が聞きたいのはそういうことじゃない。誰が見たって分かる。コレは殴られた時の傷だ。」

希一の傷は腹の打撲や唇の端に擦り傷。

「転んだ時、普通なら咄嗟に手をつくだろ。お腹に打ち身なんて水泳の腹打ちじゃないだから、そんな所にそんな傷が出来るハズ無いだろ?僕が言いたいのは何が理由でお前が殴られたってこと。」

「…兄さんには関係ないだろ。」

この言葉は希一の干渉を拒む時の言葉。
つまり首を突っ込むなと暗に言っていることになる。

「あのな、希一。何でお前は言わない?」

「あ?」

うわぁ…凄い不機嫌だ…。
いつもなら「は?」とかいうハズがまるでヤンキーみたいな返答だ。

「首を突っ込むなって言うんなら無理に干渉する気は無いけどさ、何があったかぐらいは話せってこと。」

「…心配掛けたく無いからだよ。」

多少、不貞腐れたように言う。
僕は呆れた。
希一は根本的に勘違いしてたらしい。

「お前さ、勘違いしてるよ。何も言わない方が心配になるんだよ。ンなことも分からないか?」

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