
美しい影
第4章 過去
でもまだピアノのイメージがしっくりこない。
ヘッドフォンを付けてピアノパートの作曲していると、人の気配がした。
どうやらドアを閉め忘れていたらしい。亜美が俺を興味深そうに見ている。
俺はヘッドフォンを外しながら、話しかける。
「来てたんだ。ん?どうした?」
俺が話しかけると、亜美は鍵盤を覗き込みながら驚いた顔をする。
「カズさんってピアノも出来るんですか!?」
「あー、出来るってほどでもないよ。独学だしね」
「え?でも今、両手で弾いてましたよね」
「ははは、左手はベースライン、右手はメロディラインを弾いてるだけだよ。楽譜通りになんて弾けないから」
「それでも凄いです」
亜美が褒めるので恥ずかしくなった。音楽を真剣にやっている身からすれば、ピアノレベルは褒められるような技術ではない。
「いやいや、全然だよ。だって毎日続けて5年でこれだからねぇ。小さい頃から弾いてれば違ったのかも知れないけど、始めたのが15歳の時だから」
「でも、ベースもギターも上手いし、そうやって何かに一生懸命になれる人って尊敬します」
「んー、ありがと。でもね、俺は楽器に救われただけなんだよ」
そうして部屋の片隅に置いてある古いアコースティックギターを手に取る。
それは俺の人生を変えてくれた物。
この1本のギターに出会わなければ俺は今、生きていただろうか。
