Melting Sweet*Extra
第3章 悪戯にはほろ苦い媚薬を*Act.1
◆◇◆◇
十月三十一日、俺はいつも通りに会社に出社し、黙々と仕事に励んだ。
幸い、大きなトラブルはなかったので、この日は無事に定時で上がることが出来た。
帰り支度を始めると、夕純さんはまだパソコンに向かっている。
彼女は女性でありながら出世頭だ。
確かに、同年代の男性に比べたら出世に乗り遅れてはいるが、それもやはり、女性という地位が社会で完全に認められていないからだろう。
男性であれば今頃は、もしかしたら、同期で入社したという:高遠(たかとお)課長と同等、もしくはそれより上に昇りつめていたかもしれない。
恋人だから贔屓目で見ている、と言われれば完全否定も出来ないが。
「唐沢さん、お先に失礼します」
まだ、オフィス内にはほかの社員も残っているから、苗字で夕純さんに声をかけた。
夕純さんはキーボードを打っていた手をいったん休め、首だけ動かして俺を仰ぎ見る。
「お疲れ様」
夕純さんから返ってきたのはこれだけだった。
素っ気ないが、彼女も周りの目を気にしているのだ。
それに、俺と夕純さんの関係を知っているのは、同じ部署内では高遠課長ぐらいだ。
その高遠課長もまた、ひたすらパソコンと格闘している。
前任は俺から見てもどうしようもないダメ上司だっただけに、高遠課長の働きぶりは目を瞠るものがある。
俺は夕純さんに軽く会釈してから、今度は高遠課長のデスクへ向かった。
「高遠課長、お先に失礼します」
夕純さんと同様の挨拶をすると、高遠課長もまた、作業をやめて俺を見上げた。
そして、右の人差指の先をクイクイと動かした。
『ちょっと近くに寄れ』という合図だと察した俺は、高遠課長との距離をわずかに縮めた。
十月三十一日、俺はいつも通りに会社に出社し、黙々と仕事に励んだ。
幸い、大きなトラブルはなかったので、この日は無事に定時で上がることが出来た。
帰り支度を始めると、夕純さんはまだパソコンに向かっている。
彼女は女性でありながら出世頭だ。
確かに、同年代の男性に比べたら出世に乗り遅れてはいるが、それもやはり、女性という地位が社会で完全に認められていないからだろう。
男性であれば今頃は、もしかしたら、同期で入社したという:高遠(たかとお)課長と同等、もしくはそれより上に昇りつめていたかもしれない。
恋人だから贔屓目で見ている、と言われれば完全否定も出来ないが。
「唐沢さん、お先に失礼します」
まだ、オフィス内にはほかの社員も残っているから、苗字で夕純さんに声をかけた。
夕純さんはキーボードを打っていた手をいったん休め、首だけ動かして俺を仰ぎ見る。
「お疲れ様」
夕純さんから返ってきたのはこれだけだった。
素っ気ないが、彼女も周りの目を気にしているのだ。
それに、俺と夕純さんの関係を知っているのは、同じ部署内では高遠課長ぐらいだ。
その高遠課長もまた、ひたすらパソコンと格闘している。
前任は俺から見てもどうしようもないダメ上司だっただけに、高遠課長の働きぶりは目を瞠るものがある。
俺は夕純さんに軽く会釈してから、今度は高遠課長のデスクへ向かった。
「高遠課長、お先に失礼します」
夕純さんと同様の挨拶をすると、高遠課長もまた、作業をやめて俺を見上げた。
そして、右の人差指の先をクイクイと動かした。
『ちょっと近くに寄れ』という合図だと察した俺は、高遠課長との距離をわずかに縮めた。