テキストサイズ

Melting Sweet*Extra

第3章 悪戯にはほろ苦い媚薬を*Act.1

「あいつが終わったらデートか?」

 小声とはいえ、いきなりそんなことを訊かれたのだから、俺もさすがに仰天した。
 他人の色恋沙汰に興味がないように思えたから、なおさら。

「えっと、特にそういう約束はしてませんが」

 少し間を置いてから答えると、高遠課長は、「そうか」と微かに口元を緩めた。

「でも、唐沢もだいぶ疲れているようだからな。明日は土曜日で休みだし、少しあいつを慰めてやれ。唐沢の性格上、周りに弱音なんて吐けないからな。杉本ぐらいにしか安心して寄りかかることが出来ないだろうしな」

 確かに高遠課長の言う通りだ。夕純さんは責任感が強いだけではなくプライドも高い。
 だから、自分の弱い姿を他人に曝け出すことを極端に嫌う。
 けれども、ふたりで酒を飲み、一夜を共にしてからは、俺にだけは心を許すようになっている。
 自惚れでも何でも、夕純さんにとっての心の拠り所は俺なのだ。


「終わるまで、近くのカフェででも待ってますよ」
 俺の言葉に、高遠課長は嬉しそうに頷いた。
 まるで自分のことのように。

「それじゃ、気を付けて帰れよ?」

「はい。失礼します」

 軽く一礼すると、高遠課長は片手を上げ、それからすぐに作業を再開した。
 一部の人間には〈鬼上司〉のレッテルを貼られているが、根は親切で優しいし、面倒見もいい。
 そうじゃなければ、一回り以上も離れた女子大生の心を射止められるわけがない。

 ――夕純さんも何だかんだ言いながら、高遠さんを一目置いているしな

 オフィスを出る寸前、夕純さんにそっと視線を投げかけると、夕純さんはこっちに気付くことなく仕事に集中している。
 小柄で可愛らしい人だけど、仕事をしている姿は格好いいな、と改めて惚れ直した。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ