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ママ、愛してる

第3章 愛の暮らし

旅館に戻る頃には、二人とも身体が冷えきっていた。

各地で桜の開花が告げられる季節とは言え、浴衣姿で散策するには少し早すぎた。

部屋に戻り、二人で露天風呂の湯船に飛び込む。

手足を伸ばして温まりながら、空を見上げる。

都会で見るよりはるかに沢山の星たちがきらめいている。

「綺麗な夜空ねえ。散歩してるときには気付かなかったわ」
ママが感激したように言った。

「ホントだ」
僕は答える。

「わたしが生まれた島でも、こんな星空だったな。もう、帰るところはないけど・・・」

「確かおじさんが、まだ住んでいるんじゃなかった?子供の頃に一度行ったよね?」

「ああ、あの人は母の再婚相手なのよ。母はわたしが高校を出るまで一人で育ててくれて、わたしが結婚した後で、あの人と再婚したのよ」

「そうなんだ」

「だから、おじさんとわたしには、血の繋がりは無いのよ。母が元気で居てくれたら、たまには帰れたんだけどね・・・。
お母さん・・・ちょっと逝くのが早すぎたよ」
ママの頬を、涙が伝う。

「・・・」

今まで見たことの無いママの涙に、僕は何も声を掛けられない。ママの母親、つまりおばあちゃんとの思い出も、僕には殆んど残っていない。
小学校に上がる前、ママと島を訪れた時に海岸に連れていってもらったことと、
蜜柑の収穫に付いていってもぎたての蜜柑を食べた事。
その程度なのだ。

「・・・。ママ・・・」

やはり何も言葉は見付からなかった。

ただ、湯船の中で、ママの手をしっかり握るだけだった。






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