テキストサイズ

ママ、愛してる

第5章 瀬戸内

おばさんにタクシーを呼んでもらって、僕たちはフェリー乗り場に程近い観光ホテルに行く。

漁師さんが片手間にやっている昨夜の民宿と違って、ホテルは観光と海水浴客で賑わっていた。


僕をロビーに待たせて、由香はフロントでチェックインする。

ずいぶん時間が経って、由香がちょっと困った顔で戻ってきた。

「あのね、ママが、二人って予約してて、ツイン1部屋しか押さえられてなかったの。
今日は夏休みで満室だから、空きは無いって言うんだけど、幸介は構わないよね?」


「ツインって?」

「大丈夫。ベッドはちゃんとふたつあるから」

そういう問題かな、とは思ったけど、ここまでわざわざ迎えに来てくれた由香にも、予約を取ってくれたママにも悪くて

「いいよ」

と、僕は答えた。

ここは温泉もあるし、寝るだけなんだから。



ボーイさんに案内されて、部屋に向かった。

スイートルームとは言わないけれど、オーシャンビューでベランダ付きの部屋は豪華で、広々としていた。

由香は部屋の扉を順番に開けては、
「お風呂、広い!トイレも別だから、嬉しい。ユニットバスとトイレが一緒って抵抗あるのよね。
幸介見て、クローゼットも広々」

由香に釣られて、僕も少しテンションが上がる。

「荷物も無いのに、クローゼットに何を入れるんだよ」

「幸介を入れとくのよ。夜な夜な襲われないように!キャハッ!」

「大丈夫だよ。ベッドの間もこんなに空いてるし!」

僕は、ベッドに飛び乗りながら言った。

もうひとつのベッドに由香も飛び乗りながら、

「だよねえ!そんなことしたら、絢子ママに殺されちゃう・・・!
あっ、ごめん。あたし調子に乗って・・・」

由香が謝る。

少し心がチクリとしたが、僕は笑いながら言った。
「いいよ。気にしなくて。それより、僕が由香の彼氏に殺されるよ」

そう言ってから、僕も自分の失言に気づいた。

「ごめん、由香」

「いいよ。お互いさま。それより、すごくいい景色!」


由香はベランダに走り出て、精一杯の伸びをした。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ