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誓いのガーランド

第19章 嵐のあとに 2

「は、離さない……わたし……離さないよ」

花実は震える声でそう呟いていた。
花実の握りしめる手が、力を入れて白くなっている。
花実は、恐怖心よりも、『楓に触れたい』と思うその一心で、楓の服の裾を握りしめていた。
心にあった言葉を、ひとことずつ、絞り出すように楓に伝えた。

「わたしは……君に触れたいんだ。あいつのために、かわいそうな運命に身を任せることは……しない」

弱い声でも、その言葉の強さに楓は心を震わせる。
久しぶりに聴いた花実の心の声に、彼は限界を迎えていた。嗚咽を漏らして泣いた。手のひらでは拭いきれないほどの涙が溢れ出る。
嬉しくて嬉しくて、花実が少しずつ戻ってきたことを実感できて、胸がいっぱいになっていた。

「ゆっくりでいい。ゆっくりで……」

楓は、赤くなった目で、花実を見つめ返す。
触れられない代わりに、しっかりとその目を見た。花実の目の中に、恐怖の色がないことに安堵した。
花実は穏やかな眼差しで、楓と目を合わせていた。

花実がゆっくりと、花が咲くように笑う。
楓の裾を握る花実の手は、もう震えてはいなかった。

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