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ユリの花咲く

第2章 瑞祥苑

それぞれの前にコーヒーを置く遥に、

「ありがとうね」

と、宮沢は礼を言う。

出ていこうとする遥を引き止め、宮沢が紹介する。

「彼女は桐谷遥ちゃん。うちの大事なスタッフの一人です。じゃあ、遥ちゃん、もういいわ。ありがとうね」

「はい、ごゆっくり」

遥が出ていった。

「紹介遅れたけれど、こちらは水野有紀さん。
私の大切な右腕。
それじゃ、いろいろお話伺っていきますね」

宮沢は、面接の一般的な質問に入っていった。

退職理由、志望動機、通勤手段や勤務条件等々。

けれど、それは殆んど形式的なもので、宮沢は既に採用を決めているのが、私にはわかる。

面接と言うのは、実は応募の電話から始まっているのだ。

極論すれば、最初の一言で合否の半分は決まっていると言っても過言ではない。

「お忙しいところ、申し訳ありません。実は、御社の募集広告を拝見してお電話させていただきました」

そんな一言が、採否を左右する。
もちろん、特別な資格や経験が必要とされる業種では、例外もあるだろうが。

それはさておき、黒木の第一印象で、宮沢が採用を決めていたのは明らかだった。
そうでなければ、遥や私を、彼に紹介したりしない。

一通りの面談を終えて、宮沢が私に尋ねた。
「有紀さん、何か聞きたいことはある?」

「いえ、特にはありません。今、うちのスタッフは、とてもまとまりがあって、助け合いながら上手くやっています。
工場勤務とは全く違った職種で、最初は大変だと思いますが、ひとつひとつ覚えていっていただけたらと思います。
私も、他のスタッフも、出来る限りのお手伝いはしますから」

「わかりました。よろしくお願いします」

黒木は頭を下げた。

宮沢は、ホッとした顔になって、私に言う。
「じゃあ、有紀さん、今日は残業ありがとう。
あとは私がいろいろ説明しておきます」

「わかりました。では、お先に失礼します」

挨拶をして、私は帰路に着いた。

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