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ユリの花咲く

第2章 瑞祥苑

その日の夕方、瑞祥苑の近くの居酒屋で、私は遥から相談を受けた。

とりあえず乾杯して、しばらくの沈黙の後、遥が話し始める。

「もう、辞めようと思うんです」

目に涙をいっぱいに溜めて話す遥。

「私は止めないわよ。でも、今みたいに仕事が上の空だったら、どこに行っても勤まらないよ」

「わかってるんです。でも、あたし、どうしても、過去の事を思い出してしまって・・・。」

「そう。みんないろいろ抱えてるからね。
私だって、バツイチだし、それなりに辛いことは経験してしたわ。
よかったら、話してみる?
辞めるんだったら、恥はかき捨てってことで、いいじゃない?
もちろん、遥の話は誰にも言わないし」

「そう・・・ですね。じゃあ」
遥はポツリポツリと話し始めた。

遥が前の職場を辞めた理由は、上司との関係だった。

大学を卒業して、初めて入った会社で、優しくされた上司と関係を持ってしまうのは、世間ではよく聞く話だった。

ただ、違っていたのは、その上司が女性だったこと。

「彼女は、新しいプロジェクトにの一員にあたしを迎えるって。だから、あたしにいろんな企画を出すように言ったんです。

あたし、寝る時間も惜しんで企画書を作って提出しました。
でも、いくら作っても、採用されなくて・・・」

遥は続ける。

「ある時、仕事の後で、企画書の書き方を指導するって言われて、あたし、彼女のマンションに行きました。
あたし、嬉しかったんです。
彼女は、入社してからずっと、憧れの存在だったから。
女のあたしから見てもドキドキするほど美人なのに、男の人の噂もないし。

課長や部長にも、女を武器にしてる所なんて全くないのに、信頼されてて、対等に意見をぶつけ合う姿がかっこよくて。
マンションでは、ホントに丁寧に指導してくれました。
その日も、企画書の書き方を一から教えてくれて・・・。
その後、彼女の誘いを受け入れたんです」


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