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ユリの花咲く

第3章 新人がきた

そして、握った手を、自らの胸に押し付けた。

「いいおっぱいでしょ?」

妖艶な笑顔で、黒木を見つめる。

「あ、あの、は、はい」

しどろもどろになる。黒木。

「江角さん、それまで!」

私が制止し、黒木は解放された。

「あの人はね、要注意よ。すぐに裸になるから、うまく対応してね。
ま、早見君でも何とか対応してるから、すぐに慣れると思うわ。
じゃあ、先に到着した人から、バイタルお願いね」

そこに、子供の学校の都合で少し遅刻して、深津優子が出勤してきた。

「ごめんね、遅くなって」

息を切らせて深津さんが謝る。

「いいですよ。あ、こちら黒木さん。今日からなので、いろいろ教えてあげてね」

「わかりました」

答える深津さんに、私は言う。

「それじゃ、深津さん、私たちこれから、入浴介助に入るので、フロアーお願いね。
じゃあ、黒木さんは更衣室で、短パンに着替えてね」

黒木を更衣室に行かせて、私は事務所で着替える。

今日の入浴は、4人。
トップはあの江角潤子。

潤子は、一人暮らしの女性で、日常生活は殆んど自立している。

もともと入浴も自宅でしていたのだが、認知症が進んで、風呂の空焚きで火事になりかけた。
それ以来、ケアマネージャーの指示で、瑞祥苑で入浴することになったのだ。

「江角さん、お風呂にしましょうか?」

私はフロアーの江角さんに声をかけた。


「あら、うれしい!」

潤子は、カバンから着替えを出して、浴室に向かう。

「黒木さんも行きましょう」

私は声をかけた。

「あの、男性が行ってもいいのですか?」

戸惑う黒木に、私は言う。

「本来ならば、同性の介護が基本なんですけど、うちみたいなデイサービスでは、理想どおりにはいかないんですよ。
だから、さっきの早見君が、女性の入浴介助もやってるし、私も男性の介助しますよ。
実際、黒木さんが来る前は、女性スタッフだけの日も、少なくなかったから」

私は答えた。

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