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ユリの花咲く

第3章 新人がきた

午後のレクリエーション。
黒木にはすこしキツそうだった。

これまで20年余りも、機械を相手の仕事をしてきた彼には、生まれた年代も全く違う利用者さんに話を合わせるのは大変らしい。

それでも、懸命に取り組む姿に、良い印象を持った利用者さんも少なくない。

おばあちゃんたちは、自分の息子位の年齢の黒木に、あれやこれやと話しかけて、
楽しそうにしていた。

特に江角潤子は、黒木の隣に陣取り、離れようとはしなかった。

太ももに手を置いて、乳房を押し付けてみたり、
「わたし、濡れてきた!」
と、叫びながらキスを求めるのには閉口したが、
黒木はうまくあしらっていた。

3時のおやつの時間には、ずいぶん垣根が取れてきたようで、全く知らないはずの、戦時中の話で盛り上がったり、当時の流行歌を教えられて一緒に歌ったりしていた。

利用者さんが帰り、わたしと深津さんとの3人になる頃には、
「何とかやっていけそうです」
と、うれしい言葉を言ってくれた。

私は、お泊まりの利用者さんの口腔ケアやトイレ介助をしている間に、
深津さんが介護日誌の記入を教え、翌朝の朝食の準備に取り掛かった。

5時半を過ぎて、今日の夜勤の遥が出勤してきた。

「おはようございます!深津さん、有紀さん、ありがとうございます!
黒木さん、お疲れ様!」

スタッフに挨拶をする。

「黒木さん、初日、どうでした?」

「だ、大丈夫です。何とか、頑張ってます」

元気な遥に圧倒されながら、黒木は答えた。

「やだあ、黒木さん。あたしの方が年下なんだから、タメ口でいいですよぉ!」

遥が笑う。

「はあ、でも、桐谷さんは大先輩だから・・・」

そんな遥を、黒木は眩しそうに見ていた。

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