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ユリの花咲く

第3章 新人がきた

「でもねえ・・・」

私はちょっと口ごもった。

「あたしを見る目、でしょ?」

「やっぱり、わかってた?」

「うん。でも、そんなにイヤらしい感じでもなかったな。でも、あたしより、有紀を見る目の方が、何だかなあ・・・。って感じ」

遥に言われて、少し思い当たらないでもない。

入浴介助のとき、私の胸やお尻に、何となく視線を感じたのは事実だった。

「でも、45歳、独身でしょ?有紀みたいな綺麗な人が側にいたら、絶対見るよねえ」

「そうかなあ・・・」

変な行動に出るとは思えなかった。

まあ、見るくらいは仕方ないかな、と、思う。


午後11時を過ぎた頃、トイレにいちばん近い場所で寝ていた竹原幸枝さんが、ごそごそ動き出した。

「ちょっと行ってくるね」

遥は立ち上がって、幸枝のベッドに近付いていく。
枕元で、ひそひそ声で、
「幸枝さん、トイレかな?」

と、聞いている。

「うん、すまないねえ」
幸枝が答えた。

「いいよ、幸枝さん。じゃあ、身体起こすよ」

遥は、幸枝の手を自分の首に回させ、背中に手を入れてゆっくり起こした。

足を床に下ろさせ、ベッドの端に座らせる。
自分の両腕を掴ませ、自分は幸枝の両肘を持って

「じゃあ、行くよ」

と、声をかけて、ゆっくり立ち上がらせた。

そのまま、自分は後ろ向きでトイレに向かう。

数分後、同じ態勢で幸枝を誘導してきて、ベッドに座らせる。

ゆっくり寝かせて、布団を掛けると、

「幸枝さん、ゆっくり休んでね」

と声をかけ、私の側に戻ってきた。

「有紀、今夜は大丈夫そうだし、もう休んでね」

遥は気遣ってくれる。

「そう?じゃあ、何かあったら、気にせず起こしてね。
今日は一日中トレーニングだったから、何だか疲れちゃった」

私は、更衣室に行き、布団を敷いて、すぐに眠りについた。

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