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ユリの花咲く

第3章 新人がきた

いつものように、朝5時に更衣室で目覚めて、
私が布団を片付けていると、フロアーでバタバタと物音がする。

「もう!山ちゃん、またあ!」

遥の声がする。

私がフロアーに行ってみると、山田実の個室の扉が開いている。
中では、下半身裸の山田が、卑屈な笑顔を浮かべて、立ち尽くしていた。

「早く穿いてよ!」

遥は山田にリハビリパンツを差し出しながら言い、ベッドのシーツを剥がしていた。

山田は、リハビリパンツを受け取ったものの、すぐに穿こうとはせず、
作業する遥をネットリとした目で見つめながら、股間のモノをいじっている。

何があったかを、私は一目で理解した。

私の頭に、血が昇った。

「山田さん、さっさとパンツ穿きなさいよ!」

私は怒鳴り付けた。

私の剣幕に気圧されて、

「ご、ごめんよ」

と、言いながらリハビリパンツを穿く。

月に何度か、個室の山田は、早朝に自慰をしている。

トイレやティッシュでやってくれれば、こちらも知らないフリをしているのだが、
時々布団の中で射精してしまい、シーツやズボンを汚してしまう。

そして、自分でも気持ち悪くなって、私たちに助けを求めてくるのだ。

自分の時なら、もう少し優しく接していた。
けれど、遥に嫌らしい目を向けて、股間をいじってニヤニヤしている山田を、私は許せなかった。

「有紀、ありがとう!」
そう言いながら、外したシーツを抱えた遥は私の横を通り過ぎて、浴室に向かう。

洗濯機のモーター音が響いてきた。

遥が戻って来たときには、山田はパンツと、スウェットのズボンを穿いていた。

「あれ?オレのベッドは?」
布団の散乱したベッドを見て、山田が訊ねる。

もう、自分のしたことは、記憶から無くなっている。

「シーツ汚してたから、交換してるのよ。ちょっと待ってね」

遥は、感情を押し殺して山田に言い、新しいシーツを布団に被せていく。

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