テキストサイズ

ユリの花咲く

第4章 夜勤

「そうよ。今はね、利用者さんの権利ばかりに目を向けて、介護士の人権は無視してるのよ。

女性の介護士が、利用者さんに抱きつかれても、『認知症だから』という理由で、問題にもされないけど、
それを振り払って利用者さんが転倒でもしたら、大問題にされる。

潤子さんの場合も同じ。
暴れるのを抑える為に、肩を押さえても、チェックされれば虐待になる。

たまにね、理想論だけで、虐待だなんだと騒ぐケアマネージャーなんかもいるよ。
じゃあ、見本を見せてくれって言っても、絶対に出来ない癖にね」

「そうなんですね。すみません、今後は気を付けます」

「うん。私の為じゃなくて、自分のためにね。
でもね、潤子さんも山ちゃんも、その時は確かに腹がたつけど、かわいそうだなって思うのよ。
山ちゃんは、奥さんが見られないからって、ここに何年も放置されてるし、
潤子さんは、家に帰れば一人ぼっちだしね。
若いうちは何でもなくても、年老いてからの独居は、寂しいと思う。
本人がどこまでそれを感じてるのかは、わからないけど」

「そう、ですよねえ」

「だからね、私は出来る限りは、一人の人間として、尊重してあげたいのよ。
それが良いのか悪いのか、いまだにわからないけどね」

「そう、ですか」

「拓也君もね、最初はすぐにキレるヤツだったのよ。最近ようやく、我慢が出来るようになったけど」

私は拓也を思い出しながら言った。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ