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ユリの花咲く

第4章 夜勤

午前7時になって、宮沢施設長が出勤してきた。

「有紀ちゃん、黒木さんおはよう。
今日はもうあがって良いわよ。私がやっておくから」

「ええ、でも・・・。」

私が戸惑っていると、

「大丈夫。もうすぐ拓也も来るから」

宮沢施設長は笑いながら言った。

「残業手当てが欲しいんですって。多分、言い訳だろうけどね。ははっ!」

多分、言い訳だろう。

夜勤が連続する私たちの為に、施設長に言ってくれたに違いない。

確かに、夜勤の連続は辛い。
通常なら、朝の9時にあがって、9時後の夕方の6時には、来なければならない。

ゆっくり仮眠も取れないのだ。

「それじゃ、お言葉に甘えて」

私は頭を下げた。

「黒木さん、上がりましょうか」

黒木に声を掛けると、戸惑った表情になる。

「黒木さん、良いのよ。それからね、今夜は7時でいいから、ゆっくり休んでね。あ、有紀ちゃんもね」

施設長が言った。

私は涙が出そうになった。

介護施設の嫌な噂は、いろいろなところで耳にする。
けれど、瑞祥苑では、こうして少しずつ助け合って、仕事に取り組んでいる。

佐久間さんだって、宮沢施設長だって、家庭があるのだから、暇をもて余してる訳ではない。

拓也だって、お金が欲しい等と言っているが、
常日頃から、『僕はお金より自由が欲しい!』
と豪語しているのだ。

私たちは、折角の好意に甘えて、瑞祥苑を出た。

自転車置き場で、黒木が私に言う。

「介護施設って、女社会で、人間関係がややこしいって聞いてたけど、施設によるんですね。
とにかく、今夜もよろしくお願いします」

黒木はそう言って、電車の駅へと歩いていった。

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