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ユリの花咲く

第2章 瑞祥苑

宮沢施設長と、食事を摂りながら、しばらくは雑談する。

基本的に、施設長が現場に入ることはない。
面倒臭そうな点数計算をしたり、地域のケアマネージャーに営業して回ったり、何かと忙しい。
ただ、年中無休24時間稼働している瑞祥苑では、夜間のスタッフがどうしても手薄になるため、週に一度、みずからが夜勤に入って補っている。

「それでも、まだ楽な方よ。前にいた所は、現場仕事から送迎までやってたからね。

いつ倒れるかと思ったわ。

その点、ここは大きなクリニックの附属だから、まあ、私の生きている間に潰れることは無さそうだし、他のデイと違って、人件費にはうるさくないから、けっこう余裕でやっていける」

他のデイサービスを私は知らないから、何とも言えないけれど、ネットなんかで見聞きする状況をと較べたら、ずいぶん恵まれているようだ。

残業は殆んどないし、公休だってキッチリと取れる。

「そうですよねえ」
私は相づちを打った。

「ところで、話って言うのはね」

食事を食べ終えて、施設長が話し始めた。

「実はね、もうひとり採用を考えてるのよ。
でね、有紀ちゃんにも面接に参加してほしいの」

「はぁ」
従業員の採否は、施設長の専任事項で、いまのスタッフは、佐久間さんを除いて全て彼女の決定だった。

そして、彼女の判断は間違っていたとは思えなかった。
大きな事故が発生したこともなければ、スタッフの退職もない。
現場も、和気藹々としたいい雰囲気だけど、
ナアナアでやっているのではなく、
ポイントはきっちりと押さえた仕事ができていると思う。

だから、宮沢施設長の人を見る目を、信頼している。

私がそう言うと、

「だからこそ、有紀ちゃんにもいてほしいの。
実際に、今の現場をまとめてるのは有紀ちゃんだからね」

施設長の言葉に、私は頷いた。

「それで、どんな方なんですか?」

「45歳の男性。未経験者。
工場が倒産して失業したと、履歴書には書いてあるわ。今日の夕方6時に来ることになってるから、少しだけ残業お願いね」

「わかりました」
私は答えて、現場に戻った。


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