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ユリの花咲く

第5章 救急搬送

大まかな対応策が決まって、雑談タイムになる。

全員が集まることはほとんどないので、日々の仕事で感じていることから、プライベートの話まで、結構盛り上がる。

その時、私のポケットで、携帯が鳴った。

夏川千賀からだった。

夏川千賀は、私の高校時代の同級生だ。
普段は、吉岡クリニックで、看護師をしているが、週に2~3日、瑞祥苑に訪問看護師として、処置やリハビリの手伝いに訪れる。

千賀との再会は本当に偶然だった。

高校時代は、クラスも別々で話した事もなかったから、
瑞祥苑で再会したときもお互いに認識してはいなかった。

たまたま、利用者さんの少ない日に、ケアの方法等を彼女から教わっている時に、
何となく、前に会った事があるよね?
と言う話になった。

そして、高校で隣のクラスにいたことが判明したのだ。

彼女には、まだ小学生の子供がいたから、仕事以外ではほとんどコミュニケーションを取ることはなかったが、
看護師としての知識や経験に教わる事は多くて、何度か相談にものってもらっていた。

「あら、千賀。どうしたの?」

私が言うと、

『田辺さん、長期連泊なんだって?』

と、聞いてきた。

「ええ、それで今、スタッフで対策会議」

『そうなんだ。でも、有紀。ちょっと水くさいわ。私に何も言わないなんて』

「ごめんね。でも、あなたはクリニックのナースだし・・・」

『ナースだって、瑞祥苑の一員よ』
千賀が言った。

「うん。でも、あなたは、小さいお子さんがいるし・・・」

『そうだけれど、いざと言うときには、役に立つわよ。
夜勤は無理だけど、クリニックで空いた時間は、様子を見に行くわ。
それと、田辺さんにもし何かあったら、すぐに電話して。夜中でも構わないから。
ダンナにも言っておくから、遠慮しないでね。
もしかしたら、田辺さん、急変があるかも知れないよ。
自宅から救急搬送されたことも、何度かあるから。
結構、救急車のなかで、専門的な事や、治療の事を聞かれる事もあるから、看護師がいると役に立つ時もあるよ』

「ありがとう、気が楽になった・・・」

私は素直に言った。

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