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ユリの花咲く

第5章 救急搬送

『いいのよ。
あのねえ、介護施設って、看護師と職員があんまり仲が良くない事って多いのよ。
看護師はバイタル取ったり爪切ったり、楽なことばかりして、高い給料取ってるとか、
週に何時間か見てるだけで、理想論ばかり言ってるとかね。
でも、瑞祥苑のスタッフって、そうじゃないのよね。
私も、勉強になることもすごくあるし、私の看護師としての知識をあてにしてくれる部分も多い。
ドクターの指示とかに疑問があったら、すぐに相談してくれたり、私が仕事をしやすいように協力してくれるのよ』

初めて、千賀から聞く言葉だった。

『昔、パートで他のデイサービスに行ってた時は、ひどかったわ。
24時間介護してる私たちの苦労を、2時間しかいない看護師にわかるもんですか!
なんて言われてね』

「そうだったの。千賀って、いつも明るく接してくれるし、スタッフも、何かあったら夏川さんに聞いてみるなんて言ってたから、看護師ってそういう存在だと思ってた」

私は言った。

『まあ、看護師も1時間幾らって、お金勘定しかしていない人もいるからね』

「みんな、それぞれ苦労を抱えてるんだよね?」

『ま、そういうこと。で、さっきの話。私も瑞祥苑の一員のつもりでいるから、困った時には連絡してって、他のスタッフにも伝えておいてね』

千賀は電話を切った。

私は、スタッフに千賀の言葉を伝えた。

佐久間さんが深く頷いた。

「夏川さんって、そういう人なのよ。彼女の前に来ていた看護師、嫌な女でね。
手が回らない時に、ちょっとオムツ交換や食事介助を頼むと、それはあなたたちの仕事でしょ?
みたいな態度だし。
でも、夏川さんは、自分から言ってくれるのね。処置が少ない時には、レクリエーションに参加してくれたり、
忙しい時にはフロアーに入って、スタッフに休憩行かせてくれたりね。
その代わり、私が服薬を間違えた時には、こっぴどく叱られたけどね。ははっ!」

佐久間さんは舌を出した。

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