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ユリの花咲く

第5章 救急搬送

拓也が、佐久間さんに続けて言う。

「確かに、夏川さんって、頼りになるっすよね!美人だし」

「美人じゃなくて悪かったわね!」

遥がすかさず、拓也に突っ込む。
スタッフの中に笑いが起きた。

「それじゃ、そろそろお開きにしましょう。
みんな、田辺さんが来たら、よろしくね」

宮沢施設長が締めて、解散になった。

今夜、夜勤の拓也を残して、それぞれの家路につく。

瑞祥苑の裏に止めている自転車の鍵を開けていると、黒木が出てきた。

「黒木さん、お疲れ様」

遥と私が言うと、黒木がもじもじしながら言った。

「あ、あのう・・・」

私たちは、揃って振り返った。

「なあに?黒木さん」

遥が答えた。

「よかったら、飯でも食って帰りませんか?
3人で」

私は遥の顔を見た。

遥が、目でオーケーと言う。

「そうですね。じゃ、近くの居酒屋にでも行きましょうか?」

「賛成!」

遥が同意した。

私たちは、昔、遥と話した居酒屋に向かう。
あの日以来、その居酒屋には、月に何度かは足を運んでいる。

20人も入ると満席になる、小さな居酒屋だが、マスターが人なつっこくて、一緒に店に立つ奥さんも、良く気が利いていて居心地がいい。
客層も、悪くなくて、悪酔いして大騒ぎするような輩もいないのだ。

それは、マスターの営業方針みたいなもので、泥酔しそうな客には、
『そろそろ帰りや』と、帰るように促す。

「オレ、酔っぱらいは嫌いなんや。
気持ち良く呑んで、楽しく話して、それがオレのポリシーやからね。
迷惑かける客は、来んでもエエねん」

と、関西弁でいい放つ。

奥さんは奥さんで、
「この人がおらんかったら、もっと儲かるのになあ」
と、笑っている。

それと、もうひとつ。
客を差別しない。

常連客も一見客も、男でも女でも、同じように接してくれる。

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