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ユリの花咲く

第5章 救急搬送

「そうなの?あたしはしっかり儲かってると思ってた!」

遥が驚いたように言う。

「あら、知らなかった?
利用者さんと介護保険から入ってくるお金って、だいたい月に300万円位が上限なの。その中で、人件費や施設の維持費を払ったら、殆んど残らないよ。正社員一人30万円、パート20万円としたら、瑞祥苑の場合、それだけで200万円近くかかるでしょ?
残った中から、施設の家賃や設備の減価償却、公共料金、送迎費用まで払ってたら多分赤字になるよ。
実際には、毎日7~8人の日もあるからね」

「だったら、どうして吉岡先生は、やめないの?」

「それは、私にはわからないわ。
お泊まりデイサービスを併設してることで、クリニックの宣伝にはなると思うけど、

私はむしろ、家庭で介護している人のレスパイトケアが目的じゃないかと思ってる。

家で介護するって、本当に大変でしょ?
たとえ、週に何日かでも、安心して預かってもらえたら、介護鬱の防止にもなるだろうし、家の用事も出来る。
その間、パートなどで働く事も、出来るよね。
だから、吉岡先生は、損得勘定抜きで、瑞祥苑をやっているように思うの」

私は、思っていることを言った。

「多分、有紀さんの言う通りなんでしょうね。
僕は、介護施設の事はまだまだわからないけど、そんなに儲かっていないってことは、わかりますよ」

黒木が同意した。

「でもさあ・・・」

串カツを頬張っていた遥が、言う。

「せめて、瑞祥苑位の余裕って、必要だよね。
だって、公休が飛ばされたり、サービス残業させられたりしてたら、あたしは持たないもん。
有紀との時間を・・・」

あたしは、慌てて遥の太腿をつねった。

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