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ユリの花咲く

第5章 救急搬送

「佐久間さん、申し訳ないっす。オレ、ちょっとムリみたいっす。」

佐久間さんは、キッチンから出てきて、

「いいよ。そういうこともあるから」

気軽に応援に応じた。


「お父ちゃん、ご飯食べようか?」

スプーンに、ミキサー食を乗せて、口元に近付けた。

田辺さんは、殆んど見えてない目で、佐久間さんを見ると、素直に口を開けた。

小さく喉を鳴らして、それを嚥下する。

「美味しいね。じゃあ、もう一口ね」

2口目からは、不穏な様子もなく、どんどんと平らげていった。

そして、薬を溶かしたエンシュアまで、きれいに飲み干した。

「今日は上手く行ったわ」

佐久間さんがお盆を下げて、フロアーに戻ってきた。

「ありがとうございます。でも、どうして・・・」

拓也が訊ねる。

「多分、朝は奥さんに食べさせてもらってるんだろうね。
それに、いくら認知症でも、自分の家じゃないことや、当分預けられてるってことを、感じるんだと思うよ。まあ、あんまり気にしなさんな」

佐久間さんは、優しく説明した。

「はい。オレ、佐久間さんに一生付いていきます!」

拓也の立ち直りは早かった。

「つまらない事言ってないで、早くフロアーの準備して!」

拓也は発破をかけられて、あわてて動き出した。



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