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ユリの花咲く

第5章 救急搬送

田辺さんが来て、ちょうど一週間。

その日の夜勤には私が入っていた。

夕食が終わり、私は田辺さんのオムツを新しいものに交換し、
念のため、体温、血圧と、SPO2(血中酸素飽和度)計る。

どれも、問題はなく、田辺さんを左側臥位にして寝かせる。
脇の下、背中、脚の間にクッションを挟み、身体を安定させて、毛布を掛けた。

他の利用者さんの就寝介助は、日勤の黒木さんが殆んど終わらせてくれている。

黒木さんと入れ替わりに、遥がやってきた。

遥は、今日の緊急対応の際の待機要員だ。

「今日は、平和そうね」

いつもの3人と、田辺さん。
何もなければ、それほど忙しくはない。

「田辺さんのバイタルも、問題ないしね」

私たちは、おしゃべりをしながら12時頃まで過ごす。もちろん、一時間ごとの生存確認と、二時間ごとの体位変換は忘れない。

オムツのチェックも終えて、遥は更衣室で睡眠をとるためにフロアーを出ていった。

私は携帯で小説を読みながら、時間通りの生存確認と、体位変換を行った。

午前4時。

私は、予定通りの生存確認に行く。

穏やかな顔に見えたが、口を半開きにしている。

私は、口元に耳を近付けた。

呼吸が、無い。
私はあわてて電気を点けた。

同室の山田実が、
「何だ!まぶしいぞ!」
と、目を覚ますが、今は関わっていられない。

私は構わず、田辺さんの頬を叩き、声を掛ける。

「田辺さん!田辺さん!」

動きは無い。

橈骨で、脈拍を確認するが、全く振れていない。

「遥!ちょっと来て!」

私は遥を呼んだ。

山田実が、起き上がって、
「何だ何だ!」
と動き回る。

私は、電話を取り、119にダイヤルした。


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