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ユリの花咲く

第5章 救急搬送

「私たちは、求められた以上の対応をしました。あなたはご存知ないでしょうが、スタッフからの申し出で、
本来シフトに入ってない者が、緊急事態に備えて、待機もしておりました。
ナースもそうです。
水野からの電話で、すぐに的確な指示を出してくれました。
ですから、これだけ早く呼吸停止の事態に対応出来たし、ハッキリ言ってどこかのショートステイで個室にでも入っていれば、朝まで気が付かなかったかもしれません。
もし、水野の対応に問題があったとおっしゃるのなら、これ以上の対応はうちでは不可能ですので、
どうか他の施設をお探し下さい」

「わかった。そうさせてもらうよ」

息子は言った。

「あ、それから、お父様の臀部の褥瘡。
早く処置なさらないと大変な事になりますよ。
うちでは、夜間も2時間おきには体位変換しておりましたが、ご自宅ではされてないようですので、念のため」

施設長は、息子に深々と頭を下げて、私に言った。

「水野さん、帰りましょう。ご家族が来られたから、もう私たちは必要ないわ」

私は宮沢施設長の後ろに付いて、病院を出た。

施設長の車の助手席で、私は聞いた。

「あんなこと言って、よかったんですか?」

「あら、どうして?」

事も無げに、宮沢施設長が言う。

「私は、私のスタッフを信じてる。それを落ち度があったように言われるのは許せないのよ。
そりゃ、呼吸停止した人を見たら、誰だってあせるわ。
でも、その中で、遥ちゃんに応援させ、ナースに電話を掛けて指示を仰いだ。
それ以上、介護士に出来る事なんてないわ。
吉岡先生だって、あなたを責めたりしないと思うよ」

私は涙をこぼしながら、それを聞いていた。

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