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ユリの花咲く

第5章 救急搬送

瑞祥苑に帰ったのは、午前8時を回っていた。

佐久間さんと拓也、そして遥が、利用者の到着準備で、いそいそと働いていた。

「有紀さん!おかえりなさい!」

私の姿を見て、拓也が言った。

「ごめんね、みんな。仕事押し付けちゃって」

「有紀さん、大丈夫?」

佐久間さんが、気遣ってくれる。

「はい。施設長も来てくれたので」

私は笑顔で答えた。

「さすが宮沢さんね。施設長、お疲れ様。
今、コーヒー入れるから、事務所で休んでて。あとは拓也が働くから」

「佐久間さん、ひで~!」

拓也が倒れそうな振りをして、みんなを笑わせる。

浴室から遥が出てきた。

大きな目に、涙をいっぱいに浮かべて。

「有紀、さん。おかえりなさい」

今にも飛び付いて来そうな雰囲気。

「遥。ありがとう。助かったよ」

私は、抱き締めたい気持ちを押さえて言った。



佐久間さんの言葉に甘えて、事務所でコーヒーを飲んでいると、電話が鳴った。

「はい、ありがとうございます。瑞祥苑です」

電話を取った施設長が、口パクで『田辺』と言う。

「そうですか、それは何よりです。
今後の事は、今はお約束しかねますが・・。
はい、水野は今朝の一件で、大変疲れております。早々に自宅に帰らせる予定ですが」

私の名前を出されて、ビクッとなった。

「はい、そういうことでしたら、本人に変わります。水野さん。電話」

施設長は、受話器を差し出した。

恐る恐る受け取る私に、施設長は指で丸を作り、OKサインを出す。

「もしもし、水野です。このたびは・・・」

『水野さん、今朝は本当に申し訳ない。
今、ドクターから、叱られました。
あと、30分も対応が遅れたら、亡くなってたって。
実際問題、付きっきりで看病する事なんて、病院でも難しい。
そんなに心配なら、自分で見るか、24時間自費でヘルパーでも頼みなさいってね。
本当に、すみません』

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