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王子様の憂鬱

第1章 昔のお話

 次の日も彼は来た。いつも彼は取り巻きの女の子や男の子を連れているイメージだったから、一人でいるのを見るのは珍しかった。図書室には幸い彼に興味本位で話しかける人もいない。彼は本に熱中しているようだった。

 次の日も次の日も、彼は一人でやってきた。二週間ほど経ったある日、彼が本を借りたいと受付にやってきた。本の題名は『人を思い通りに操る方法』。あ、この人ヤバイ人なのかもしれないと思った。

 それからも彼は図書室に通った。図書室の中で彼が異質な存在ではなくなってきた頃、いつもみたいな余裕を失った彼が私のいる受付に押し入ってきた。

「ごめん、ちょっと避難させて」

 受付は足元が見えないデスクだったので、彼はそこに隠れた。ふわりと花のような香りが漂った。いい匂い。

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