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王子様の憂鬱

第1章 昔のお話

 しばらくするとドタバタと図書室に似つかわしくない大勢の足音が聞こえた。バンッと乱暴に開けられたドア。入ってきたのは彼の取り巻きだった。

「幸人来なかった?」

 そう聞かれた私は知らないフリをした。いいえ、と首を横に振ってすぐに本に視線を戻した。上手い具合に早く出て行けオーラと興味ないですオーラが出せたと思う。

 取り巻きたちはブツブツ言いながら図書室を出て行った。

「行きましたよ」

 足元を覗くと、小さくなっていた彼は安心したように表情を綻ばせた。よく分からないけれど、この人にもこの人なりの苦労があるようだ。

「申し訳ないが、俺の好きそうな本を持ってきてくれないか。まだ見つかりたくないんだ」

 私は彼の名前と顔くらいしか知らないけれど、いつも心理学の本を読んでいることは知っている。本棚から適当な本を選んできて彼に渡した。『人の心を読むための本』。彼は私の足元でその本に熱中していた。

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