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優しく咲く春 〜先生とわたし〜

第6章 メゾンボナール305号室

「これが効くんだなぁ〜。はい、ひと口めは手伝ってあげる」

井田先生は、カップからスプーンでアイスクリームを掬いとって、わたしの口元まで持ってきた。
入院中は、そうやってよくお世話になってたのに、久しぶりだとちょっと恥ずかしい。

やっと通った鼻に甘いバニラの香りが届く。釣られるように、口を開けていた。

アイスクリームが、火照った顔をゆっくりと冷ますように溶けていき、心地よい。
魔法のように、心が落ち着いていって、心の深いところでほっとしていた。

「……おいしい」

「でしょ?」

つぶやくと、井田先生が得意げにわたしを見つめていた。

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