テキストサイズ

優しく咲く春 〜先生とわたし〜

第6章 メゾンボナール305号室

優は、一緒に暮らし始めてから、印象が少し変わった。入院してる時は厳しくて怖い先生だったけれど、退院してきたら、なんだかんだ優しくて、話を聞いてくれる。
その綺麗な横顔に目を奪われていると、優がわたしの前にしゃがみこんだ。

「ちょっとごめんよ」

両手でわたしの顔をすっぽり包み込むと、親指で下瞼を裏返して、色を確認する。
そのまま、首を包み込んで触っていった。
優が家にいる時は、1日1回、こうして軽く体調をチェックされる。
手が、大きくて温かくて、気持ち良い。

「……問題なさそうだな。ネクタイ、曲がってる」

最後に、わたしの制服のネクタイに手を伸ばして、形を整え直す。これはおまけだ。

「ありがとう」

ちょっと恥ずかしくなって目を逸らすと、頭をポンポンと撫でられた。
優は立ち上がると、ハチワレのチャームがついた鍵を手に取ってわたしに渡す。

「遅刻するぞ。今度は井田先生に怒られる」

と、冗談っぽく言って笑った。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ