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優しく咲く春 〜先生とわたし〜

第8章 本当の話をしよう

時刻は午後7時20分。
診察室をノックする音が聞こえて、扉が空いた。
振り返ると、優が立っていた。少しだけ息が上がっている。どうやら、急いで来てくれたみたいだ。

驚いた表情で止まる優。
一瞬、時が止まったかのようだった。

「どうよ、澤北、君のところのお嬢は」

得意げに、早乙女先生が言う。

「……似合ってますね」

感心したように、優が言葉にした。

「まぁ、浴衣選んだの澤北だけどね。小児科にこんなのあったとは。よく見つけたね」

優が選んでくれたんだ……。
ちゃんと似合う柄と色を、優が選んでくれた。
そのことがすごく嬉しくなって、もじもじと俯いてしまった。

「数年前に院内の夏祭りやった時、何着か用意してたの思い出したんです。早乙女先生、着付、ありがとうございました」

「今度、飲み付き合いなさいよ。井田も一緒にね」

早乙女先生はそう言うと、にっこり笑った。

「わかりました」

「写真、撮ってあげるから、井田に送り付けなさい。あいつ、仕事とはいえこんなかわいい子置いて、後悔させてやる」

そう言いながら、早乙女先生は優からスマホを受け取ると、わたしのことをパシャパシャと撮る。
なんだか恥ずかしくなって、耳まで真っ赤になってしまった。

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