優しく咲く春 〜先生とわたし〜
第8章 本当の話をしよう
……本当は、優と春ちゃんと3人で歩きたかった。
仕事とは分かっているけれど、仕方ないとも言いきれなくて、寂しい。
「……3人で歩きたかったなぁ」
呟くわたしの頭を、優がそっと撫でた。
早乙女先生は、思いついたように天井を指さして言った。
「……じゃあ、終わってからここの屋上、行くといいよ。毎年花火が綺麗に見える、穴場よ。今年はあんた達3人に譲ってあげる」
「花火……!」
花火は3人で見られるかもしれない。
そう思ったら、落ち込んだ気持ちが少し元気になった。
「それじゃ、楽しんできてね。わたしはこれからが忙しいからね。さーて、今日は何人産まれるかねぇ」
早乙女先生は今日は当直らしい。
そう言って、大きく伸びをしながら、診察室を出ていった。
診察室に、2人、取り残される。
優は、わたしのことを見つめて言った。
「咲、遅くなって悪かったな。行くか」
「うん!!」
優の後に続いて、歩き出す。
「ほ、はわわわ……」
初めての下駄は少し歩きにくくて、戸惑う。
すぐ脱げてしまいそうで、変なところに力が入った。
「ゆっくり歩けよ」
言いつつ優は、いつもよりゆっくりと、その歩みを進めてくれた。