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優しく咲く春 〜先生とわたし〜

第9章 アメとムチと無知

「海!!! ねー!海、行ったことない!」

海。大きくて広くて、砂浜があって。
テレビや本でしか見たことがない。実際に行ったことが1度もなかった。

「海がいいのか?」

「うん!」

優に訊かれて、大きく頷いた。

「よし、じゃあ海に行こう」

「やったー!」

お祭りから、夏休み中に海。この夏は楽しいことがいっぱいだ。
わくわくした気持ちを抑えられなくて、座りながら椅子の下で足をパタパタと動かす。


そんなわたしを見ながら、春ちゃんはゆっくりと近づいてきて、わたしが座る椅子の横にしゃがんだ。目の高さが一緒になって、春ちゃんの真剣な目に吸い込まれそうになる。
自然と心が落ち着いて、足の動きが止まった。

「咲、海に行く前にひとつお約束。頑張ってほしいことがあるんだけれど、大事な話だからちゃんと聴いてくれる?」

落ち着いた声で春ちゃんがわたしに言った。
お約束……? 頑張ってほしいこと……?

「なに……?」

わたしは恐る恐る聞き返した。
春ちゃんは答えることなく、優と目配せする。

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